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Episode-3
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 「すみません?」
 ヴェンツェルが外に出る前に、ブロンドヘアの少女が扉を開けた。初めて見る人物だったが、背丈や身なりを見るに“将来有望な娘さん”と言われるに相応しい少女だった。
 ヴェンツェルが口を開くよりも早く、少女が力強く喋り始めた。
 「ナータンお爺様はいらっしゃいますか? 楽器を見せてほしいんです!」
 「は……?」
 ヴェンツェルの口から思わず声が出た。

 決してヴェンツェルが冷徹な態度をとった訳ではない。ドイツ語しか知らないヴェンツェルは、イタリア語で話しかけてきた少女が何を言っているのかが解らず当惑してしまった。
 それでもナータンという人名は、イタリア語とドイツ語でほぼほぼ共通していた事が幸いし、この少女がヴェンツェルではなくナータンという人物、つまりこの楽器店の店長に用事があることが解った。
 

 「あー……」
 ナータンさんなら出掛けている、と伝えたいところだが、それを言おうにもヴェンツェルはイタリア語が話せない。珍しく表情に焦りの色が見えている。
 「なによ? ナータンお爺様ってここの店長でしょ? 知らないの?」
 「いや……」
 流暢なイタリア語への対応に困っていると、今度は白いコートを着た男性がずかずかと入ってきた。
 「ラーラ! どうだ、良い楽器は見つか……ヴェンツェル!? なんだ、どうしてここに居るんだ!?」
 直近で何度も見たことがある姿を思わぬ場所で目撃し、ヴェンツェルは面食らった。
 
 「……アンタ!? 名前なんだっけ」
 「ローデリヒだ!」


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この作品はフィクションです。
実在する人物や団体、事件や情勢などとは関係ありません。


 

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